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10年夢blog 第9回 [GBA作品(小説)]

10年夢blog 第9回

 帰宅後も情報が整理できない。
 新田が自ら命を絶った。大学院に残り、ロシア文学を探求し続けた彼が。順調に学会論文も発表し、吹奏楽部の俺の同期で、知る限りでは一番の出世頭の新田が。
 あの後幸江さんから聞いたところによれば、彼は助手の任期満了を前に相当悩んでいたらしい。それが研究のことなのか就職のことなのかさっぱり分からないが、相当うわごとを言うようになっていたと。
 彼は夢に魘され、夢に惑わされ、そして夢に殺された。彼はドストエフスキーを読んでいたはずだが、ゴーゴリの作品みたいになってしまったようだ。
 何なんだよそれ。起きて見る夢はお前の方が大きくて多かっただろ。実現した夢もお前の方が多かっただろ。

 でもそれと同様に、いや、それ以上に、俺だけが新田の自殺を知らないというのが何だか悲しかった。
 俺は正月の頃に新田と会っていたんだよ。なんであのやつれようから追いつめられているというところまで気づかなかったんだ。
 そして、なんであいつがいなくなったことを、実際に会った筈の俺よりも猛たちの方が知っていたんだよ。猛も電話したときに何で教えてくれなかったんだよ。
 俺、それこそあいつらと違う道に分かれた10年前から、浮いていたんだろうか。
 無力感やら孤独感やら、色々なものが混ざり合っていた。
 あの夢で風に飛ばされ去っていったリーフレットは、新田のことじゃない気がする。もっとなにか、支えになっていたものが、去っていったように思えてきた。

 それから一ヶ月ほどは、起きているのに悪夢みたいだった。
 実は俺は2月12日にあったことを、久しぶりに覚えていた夢の出来事としてblogにアップした。そして因果関係として、
 その日起きたこと:大切なものが去っていった
 とだけ書いた。
「なんだそれ」
「キレがないですねしゅーさん」
「面白くない」
 そういったコメントがついた。そしてこの日からアクセスは減っていった。
 あのトラックバックもつかなくなった。
 夢とblogと日常生活がいい方向で連動するのが当たり前になっていた俺にとって、この影響は大きかった。
 起きている日常においても冴えない日々が戻ってきた。仕事ではまとまりかけていた業務契約が、横槍が入ったことで奪われてしまった。それ即ち正社員への道が遠ざかったことを示す。

 何もかもがうまくいかないような気がした。誰かに愚痴を聞いてもらいたかった。3月になり、例によって旧友に会うために連絡しまくったけど、この時期は皆忙しい。分かってはいるのだけど、捕まらないのは寂しい。
 こうなったらやはり猛に連絡しよう。この前会えなかったように、忙しいだけではなくあいつも新田の件で落ち込んでいる。だから最後の手段だと思っていたんだけど、やっぱり頼れるのはあいつだと思う。
 そう思って街を歩けば、電話をする前に偶然猛を雑貨屋の前で見かけた。

 しかし様子がおかしい。
「や、やあ、久しぶりだな」
 もう話したいことはやたらとあったが、どうも彼は俺に話しかけられるのを避けたいように見える。何でなのかは知らないが、困ってなどいられない。
「何から何までうまくいかない。」
 困ってなどいられないとはいえ、いきなり何を言い出したのであろうか俺は。不躾唐突空気を読まず。
「おおおお落ち着け。何だ、嫁から聞いたけど新田のこと知らなかったんだってな。でもお前は思い詰めたにしても早まるなよ、なっなっ」
 こいつの方から俺の夢blog関連の突っ込んだ話を持ち出すのは珍しい。それより何だこの狼狽ぶりは。いつもの説教はどこに行った。
「もう10日くらい待てばなんとかなるかもしれない、少なくともそれくらいは強く生きろ。な、頼む。だから今日はスマン、それじゃ」
 あからさまに帰りたがっている猛。なんだよどういうことだよ。
「とにかく、今お前に構っている暇はないんだ」
 猛はそう強い口調で言ってダッシュで離れた。
 人と人との繋がりなんてこんなものか。卒業以来10年の絆も、「10日我慢しろ」で終わってしまったのか。
 いや、俺が悪いんだ。何とかしようと行動しない俺が。とうとう愛想尽かされてしまったか。
 昨晩見た覚えはないけど、夢のせいにしておけば気が楽かな…

(続く)


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